闇を歩く②

闇を歩く』以来半年ぶり2回目、

闇を歩くナイトハイクツアーに参加しました。

2025年7月末の旅の記録です。

今回は、ミッドナイトハイクということで、

夜に集合して日が昇るまで歩きます。

普段の登山装備に加えて、

1人用レジャーシートと

暗くて小さな懐中電灯を持っていきます。

登る山:箱根外輪山の黒岳(標高1018m)

18時過ぎ、小田原駅到着。

初上陸の町、やや緊張

最高の施設、万葉の湯で

入浴を済ませ、

天ぷらそばを食べ、

少しだけ寝っ転がって、

21時発のバスに乗りました。

なんか、緊張しているのか

思うように眠れない。

21:45バス停、仙石案内所(Googleマップ)着。

この日のメンバーは、

主催の中野先生の他に

私を含めて4人。

何も急ぐことなく、

静かに会が始まっていき、

これから闇に溶けていくんだなぁという感じが

現実になっていきます。

降りたバス停のあたりは

想像よりも人々が暮らしている気配があって、

街灯もありはしましたが、

目が慣れていない、

足元が慣れていないめ、

最初から自分がどこを歩いているのか

足の感覚が宙ぶらりんになりました。

いつもだったら友人たちが待ってくれたり、

足元を照らしたりしてくれる。

さっき吉祥寺でみんなで

回転寿司を食べていた時だって、

みんなが多く出しすぎていて

私の支払い分は75円だったというのに。

いつもとても甘やかしてもらってる。

今夜は自分の足で最後まで歩き切る。

気を付けてよ!って見送ってくれた

みんなの顔が思い浮かぶ。

山の小道に入るところになると、

いよいよ先が真っ暗になりました。

月のない夜。頭上は木々で大体埋め尽くされています。

中野先生が、「ほたる歩き」を教えてくださいました。

明るくない懐中電灯で、

数m先を一瞬照らす。

記憶を頼りに少し進んで

また足元が不安になってきたら

少し先を一瞬照らす。

これで、目は暗闇に慣れたまま

闇歩きができるそう。

暗い状態で歩けば、

本当のほたるの光も見つけられるそう。

本当に少しずつ、

だんだんと歩き方に慣れてきて、

木の根が少ないところであれば

照らして消して、

一瞬歩く、というリズムが

少しずつ掴めてきました。

100均で一番暗い懐中電灯を購入したけど、

目が明るさにやられてしまいそうで、

親指で半分塞いで調整しながら使いました

(黒マジックで塗り潰すと少し暗くできるらしい)。

初めて、野生のほたるを見ました。

かすかに見える、

弱々しくてやさしい緑色の光。

東京に帰ったらみんなに自慢しよう、

と思っていました。

この後の大冒険をまだ知らずに。

川を横切る橋に出ると、

前回虜になった寝転びタイムになりました。

レジャーシートを敷きそびれた。

まぁ、背中が汚れたって別にいいか。

普段、潔癖気味なのがここでは

あほらしくなる。

気にしすぎな私は、

むしろ山と相性がいい。

星が少し見えました。

ここでは夏の大三角を見つけられる人ばかり。

お隣さんを真似して橋の柵に足をかけて休む。

登りになると正直きつかった。

いつもなら、木の根に足先をうまく掛けて

気をつけていれば問題なく登れる道。

登り始めて1分くらいですぐに気がついた。

呼吸が出来ていない。

「ゆずゆさん、息吐いて!

吐いたら吸えるから!」

日光白根の森林限界のあたりで

友達が叫んでくれた言葉が蘇る。

さっきまで楽しめていた虫の声や

かすかな自然の音は

自分の精一杯の呼吸でかき消されていた。

息が荒れているのは私だけだった。

懐中電灯を握りしめている指が

力いっぱい固まっていた。

パニックになりかけていることに気がついて、

落ち着いて一歩一歩を踏みしめる。

前の人を見失わないように、高速で。

前の人は容易に見失った。

体に負荷のかかる登り、

普段だったらちゃんと寝る時は寝ている時間、

郷に入っては郷に従いたくて存分に照らさない足元。

隊列の2番目、

中野先生のすぐ後ろを歩いている時は

なおさらだった。

すぐ前にあったはずの

一定のテンポの明かりの点滅は、

気がついた時には足音もなく

視界の先に消える。

何度か気が狂いかけた。

脳味噌が焦っていた。

先生の光の点滅が見えない。

後ろを振り返る。

後ろの人の光の点滅が見えない。

四方八方が暗い。月明かりがない。

1人になった。

やばい。朝まで時間がありすぎる。

この道で合っているかわからない。

多分他の道はなかった。

本当になかった?

「ゆずゆさん、気をつけてくださいよー!」、

「ほんとに気をつけてねえ」。

一歩一歩に集中して荒れる呼吸で

無我夢中で登った。

夜明け前の富士山で泣いた時よりは強い。

先生は(体感)ずいぶん先で時折光を点滅させながら

待ってくださっていました。

でも、これを何回か繰り返しているうちに気づく。

光で数メートル先を一瞬照らした先に

先生がいなくてもめちゃくちゃ怖いし、

急にいてもめちゃくちゃ怖い。

0時、1時ごろは時間の進みが遅く感じられました。

まだ登り始めて2、3時間。

体力もつかな。やり切るしかないな。

登山らしい道から、急に車道に出ました。

すごい霧。

じめじめとした暑さで、髪の毛びしょびしょ。

目の前に大きくて長いトンネルがありました。

月明かりのない霧の夜のトンネル。

向こう側にわずかに緑が見える。

唐突に先生がトンネルのほうへ吸い込まれていって、

手を叩く音が大きく反響しながら響いてきて

笑ってしまいました。

隣の方は車道のど真ん中で寝っ転がっているし。

なんて自由なんだ。最高だ。

他の方々もトンネルに向かっていったので

私も慌てて便乗しました。

トンネルの風は冷たくて気持ちがいい。

手の音、声の音、口で鳴らしてみた音、

深く、長く響いて、最後は少し違う音色にまでなって返ってくる。

不思議で、少し怖くて、心地がいい。

いや、でも、なんかさっきまで見えていた

トンネルの向こうがだんだんかげって

ほぼ見えなくなってしまって、

怖くなってへらへら笑ってしまった。

これ、吸い込まれたら終わるやつだ。

歩いていた道の続きに戻りました。

トトロでメイたちが屈んで潜っていたくらいの高さの

草のトンネルを潜って進みました。

夜露ってすごい水の量なんだな。

笹のような草を掻き分けて進むゾーンが

多くありました。

頭びしょびしょ。

雨のような、パラパラとした音。

雨か、ただの落ちてきている水の音か。

よく分からないけどどんどんお風呂上がりの頭になりました。

手遅れになる前にみんなで上着を羽織りました。

野原のようなところに出ると、

霧でもやもやと真っ白で、

幻想的でした。

光富士と呼ばれる、

山梨側と静岡側、両方からの登山者の明かりが

富士山を縁取るように光って見える様子が、

ここから見られるのだそう。

分厚くて手強い霧。

とてもじゃないけれど今回は拝めなさそうでした。

霧は突然晴れることがあるので、

粘りつつ、休憩になりました。

私はというと、めちゃくちゃ眠くなっていました。

座るという判断ができずに、立ったまま、

他の方々の会話が左から右へ

流れていく中、半分寝ていました。

強い風で凍えそう。

寝ちゃったほうが寒くないかも。

「だんだん気がおかしくなっていく時間帯ですね」。

みんなもそうらしい。ちょっと安心。

そういえばしばらく何も口にしていない。

大急ぎでフルーツのパウンドケーキを食べる。

何か食べないと。

これは自分との闘い。

再出発の時、中野先生が

「なんだか我々だけ、

異世界に降り立っちゃったみたいですね。」

というようなことをおっしゃっていて、

UFOから宇宙人が出てくるところや、

このまま誰の助けも来なくて

途方に暮れるところが

頭をよぎりました。

意識が不鮮明だったのか、

あまり覚えていません。

多分、全部で3つある山のピークを

全て超えました。

山頂と呼ぶには難しいような、

確かに周囲と比べたら

坂のてっぺんになっているなという場所で、

みんなで静かに喜びました。

3時過ぎ、

また草原のような場所に出たと思うと、

コンクリの地面や

牧場にあるようなテーブルが目に入り、

眼下に駐車場も現れました。

休憩タイム。

食べ損ねていたおにぎりを食べることにしました。

コンビニで買った、

二つ入りのお弁当タイプのおにぎり。

ラベルの文字が読めないし、

何味と何味か見るのを忘れていたので、

闇おにぎりとなりました。

中はおそらく昆布でした。

カラオケオールだったら一番つらい時間帯。

風が冷たくて凍えそうだけれど、

背に腹はかえられなく、

横になってうずくまって目をつむりました。

このまま深く眠ってしまうと多分よくない。

でも、山にいる時だけ思ってしまうことがある、

山で死ぬなら別にいいかも。

少しどうかしているかもしれない。

吉祥寺駅で、みんなに見送ってもらって

おいてよかった。

「濃い霧で遊びましょう」と中野先生。

人が立っているところを背後の下の方から

懐中電灯で照らすと、

巨大な自分の影が目の前に出るのだそう。

しかも、本人からしか見えない。

全然知らない遊び。

夜の達人は、引き出しの数がすごい。

目の前に立ちはだかる自分の影は、

名古屋のナナちゃん人形ほどの大きさがありました。

最後の下は意気揚々と降りました。

夜明けが近い。

ちょっとずつ足元が認識できるようになってきました。

それでも一歩でも気を緩めると

足を滑らせてしまうので、

最後まで怪我をしないようにと、

段差のあるところは

薄明かりで照らしながら

降りて行きました。

中野先生が急に足を止めて、

耳を澄ませている時はこわい。

何がいる?何かが出てくる?

1、2分身構えて、

「ピヨ」とかわいい声で鳴いたのは

鹿だったようです。

安心して先へ進む。

下りの道は、両側がひらけているようでしたが、

白い霧で埋め尽くされていました。

それはそれでなんだか早朝らしく、

美しかったです。

車道に出ました。

休憩。

気がついたら空が明るくなってきていました。

闇歩き中は封印していた

一眼レフを取り出す。

車道のど真ん中に立てるなんて、

闇の人の特権だ。

まだまだ下る。

木と岩と苔の道を下る、下る。

夜明けが近くなってきただけでも、

湿った苔で滑りやすい足元でさえ

安心して歩けました。

山から這い出て、

芦ノ湖の周りをぐるりと歩きました。

湖に映る朝焼けを見て、

ようやく昇ってきた朝日を拝み、

これだけでも充分に

ハイキングとして楽しめるような距離を歩きました。

始発のバスまで時間があるので、

各々景色を見たり、休憩を挟んだりして

歩く。

数時間ぶりの自販機を見つけた時は

感動しました。

午前6時18分、

桃源台バス停(Googleマップ)に着き、

長い長い夜の散歩が終わりました。

バスの座席に座ってホッとする。

結構ハードだった…よね?

達成感に浸るような、

上の空のような気持ちでしたが、

登山靴を見ると

この長すぎる夢が

現実だったことが分かりました。

この冒険の大部分を占める真っ暗闇での

動画はありませんが、

撮影できるタイミングでは

アクションカメラを回したので

ぜひ見てください。

長い旅の記録にお付き合いくださり、

ありがとうございました。

主催の中野先生、

今回も楽しい時間を闇がとうございました。

(中野純先生HP:さるすべり家頁

ゆずゆ