初めての一人旅(横須賀市浦賀)
10月あたま、平日のお休み。
どこかに行ってみたくて、
大阪万博にふらりと行ってみるのもいいな〜
と思いつつ、
もうチケットなんて取れたもんじゃなかったので、
自分の中で何をしてもいい日ということになりました。
前日の夕方、
Googleマップをぽちぽちしていて見つけた
久里浜のほうのはじっこにある
「かもめ団地堤防」。
かもめ団地。
いい響き。
何があるというわけでもなさそうな
この堤防を旅のゴールにしてみる。
張り切って早く起きるわけでもなく、
9時に起きてのんびり支度して出ました。
品川駅で乗り換えた京急本線は
バスのようなシートで、
旅が始まった実感が急に湧いてきました。

旅。旅行。
数年前までは興味がなかったことが
自分でも嘘のよう。
カネコアヤノとか、柴田聡子とか、
そういういい音楽を聴いていたら
ぽろぽろと涙が出た。

一人で旅に出て、
静かな心で
車窓を眺めることができているというのは、
私の心と体が健やかになった証拠だった。
驚いたことに、まどろむこともなく
京急久里浜(くりはま)駅に到着。


知らない駅。
まあまあ大きい駅。
電車の中で調べたやつっぽい
バスに乗り込む。
それっぽい電車やバスに飛び込んじゃうのは
私のあまり良くない癖です。
ま〜、今日はとんでもない場所に
連れて行かれちゃってもいいや。

それっぽいバスは、
ちゃんと目的地に連れて行ってくれました。
紺屋町(こんやちょう)で降ります。

ゴールである「かもめ団地堤防」に行くためには、
ここから「浦賀の渡し」に乗って
対岸へ渡ります。

なんと、ボタンを押すと自分のために船が来てくれて、
対岸まで送り届けてくれるのだそう。
ちょびっと緊張するので、
まずは食べそびれたおにぎりを食べます。


勇気を出して、ボタンを押してみます。

押した手応えは一応あったけど、
ピンポーンとか言わないので
結構不安。
対岸にお客さんを届けているところだった船は、
一仕事を終えるとすぐにこちらへ
引き返してくれました。


今乗るのは私だけ。
運転席のおじさまに運賃を支払います
(往復600円)。
わ〜、船。
猿島に行った時の船を思い出したけれど、
あの時の船は大きかったので、
自分だけをこぢんまりと乗せて
穏やかに対岸まで送り届けてくれる赤い船は、
特別感そのものでした。

海面に近い白い椅子は、
夏の終わりによく合う爽やかな白で、
いい気分で海の向こうを眺められました。
そんな時間も2、3分。
対岸は大回りすれば歩けちゃうくらいの距離なので、
すぐに到着します。
この距離だから、時刻表がなく、
ボタンで呼んだらすぐに来てくれます。


いい旅の予感を感じつつ、
船を降りた目の前にあるカフェに
惹きつけられました。
ELMAR URAGA TERRACE CAFE(Googleマップ)。
OPENと書いてあるので、
入ってみることにしました。
さっきおにぎり食べちゃったけど。
あたたかい光の建物の木の階段を2階まで登ると、
おばあさまたちが談笑していました。
た、旅〜!
キッチンにいるオーナーのおばあさまに
できる限りの大きさ(小さい)で声をかける。
「わあ、ごめんなさいね」と出てきてくださって、
とても安心した旅の一軒目でした。
何を注文するか悩んで、
なんかちょっとテンパってしまって、
お抹茶(なかなか飲む機会がないから)と
チーズケーキ(おすすめしていただいたから)
という組み合わせになりました。

おばあさま方のお喋りをBGMに
のんびりと待っていると
(1000万騙し取られちゃった話とか、
あの人は飛行機で死んじゃったわよねとか、
私たちこれからも定期的に集まりましょうよ!とか)、
素敵なお盆に乗ったお抹茶とチーズケーキが
出てきました。

「こんな組み合わせもいいわねえ」。
お抹茶仕様に、
ちょっとした飾り付けをしてくださいました。
私の住んでいるところの近くに
お友達が住んでいるらしい。
そういうのって、なんだか嬉しい。
お土産に、どら焼きをいただきました
(たまたまなので、あんまり参考にしないでね)。

おばあさまに見送っていただいて、
住宅街を歩きます。





数分歩いていると、
立派な神社がありました。
叶神社。

「お参りに来たの?」という
さっきのおばあさまの言葉を思い出す。
きっと有名な神社だと思い、
寄ってみることにしました。

凛とした佇まいで、
不思議と気持ちが落ち着くような感じがありました。
帰りの景色がまた素敵でした。

とにかく水辺が多い。
うんうん、こういう町に来たかった。

そのへんの水辺を覗き込むだけで、
水の透明感がすぐに分かります。


かもめ団地の方面へ、15分ほど歩きます。






地域の方とはほとんどすれ違いませんでしたが、
港はお仕事をされている方で
活気があるようでした。

ほどなくして、かもめ団地に到着。
おお、これがあの、
(私の中で昨日から)有名な。


付近にハイキングコースがあるようだったので、
脇道で見かけたこの階段も
ハイキングコースの一部なのかもしれません。



迫力のある大きな鳥が
ふわあっと電線に止まって、
びっくりしました。
カラスみたいな気軽さで
トンビ?を見かけました。


団地の色がとても可愛い。
壁に20何番という番号が書かれていたので、
この辺り一帯がかもめ団地なのかもしれません。





団地の間を歩いて、
この旅の折り返し地点、
かもめ団地堤防へ向かいます。





堤防沿いでは散歩をしている年配の方と
よくすれ違いました。
そして、感動的なことに…
かもめ団地堤防では、
ちゃんとかもめが飛んでいました。





もっともっともーっと歩けば、
砲台跡や横須賀美術館などもあるようでしたが、
帰りの渡し船にも乗りたいので、
引き返します。





叶神社前まで戻ってきました。

神社の石段を登った左の小道に、
イギリス風のカフェ(ティールームと言ったほうが合いそう)が
あるようだったので、
もう一度鳥居をくぐることにしました。
船の運行が17時まで。
一時間くらいは居られるかな。

ありました。
サロンアカンサス(Googleマップ)。

サンルームのような建物、
ガーデンの奥へと続くような細い小道、
レンガの感じ。
飾りすぎない、
なんともリアルな英国の空気感。
奥様はとってもお話好きな方で、
ドアをくぐるや否や、
おしゃべりの花が満開に咲きました。


落ち着いた色味なのにカラフルな小物。
家具の木の感じ。
布で作られた小物。
お部屋の中もイギリスそのものでした。
イギリスに長く住んでいました!英語ペラペラです!
とは言えないような、
微妙な生い立ちの私。
それでも、
この英国の空気感が思った以上に
自分の心を安心させてくれたことに驚いて、
実は父の仕事の都合で…と
身の上話をしました。
小さかったり、
日本人学校に通ったり。
イギリスの文化を、知っているようで
そんなに知らないこと。
美しい景観が当たり前で
特別だとは感じていなかったこと。
自分の教養が乏しくて恥ずかしいなあとも
思いましたが、
奥様は「それもそうねえ」
「恵まれていたわね、よかったわね」
と言ってくださって、
きつくきつく縛っていたリボンが
ほどけたような気持ちになりました。
日本に帰りたくて仕方がなかったけど、
街並みは美しかった。
教会が好きだった。
フルーツが安くて嬉しかった。
性格は全然合わなかった。
日本人学校は楽しかった。
私はまだまだ子どもだった。
それだけのことだった。
大好きな日本で暮らせて
今でもほっとしている
特にイギリスに行きたくなかった自分と、
イギリスに行きたくて仕方がなくて
こんな素敵なお店まで開いちゃった奥様と。
浦賀でおしゃべりしているのは
なんとも不思議な出会いでした。


旦那さまがお店にいらして、
またまたお上品な空気感と、
友達の家で遊んでいたら
お父さんが帰ってきたようなこの感じに、
猛烈にイギリスを思い出す。
いつの間にか船の営業終了まであと10分になっていて、
お二人に急かされながら
おいとましました。
「裏口から行きなさい」と奥様。
大事に育てていたであろう薔薇の花壇を横目に、
裏から出していただきました。
「さあ、降りていきなさい、
この300年の歴史の石段を。
まっすぐ行って、右に曲がるのよ」。
行ってらっしゃい、
と上で手を振ってくれている奥様に別れを告げて、
船着場に小走りで向かいました。
イギリスを後にするのは
私の人生で四度目のことでした。
船着場に到着したのは、16:57。
ちょうど他のお客さんを乗せて
出てしまったところでした。
あちゃ〜。ダメもとでボタンを押します。





対岸で新たにお客さんを乗せて戻ってきた船は、
私のことも送ってくれました。
「もう帰っちゃったのかと思ってたよ」
と笑顔のおじさま。
数時間前に乗った時は緊張したけれど、
なんだか一丁前に町に馴染んだような気分になって、
帰りはおじさまともおしゃべりしました。
ギリギリに送り届けてくださり、
ありがとうございました。



日が早くなってきて、
いい時間。
せっかくなので浦賀駅まで歩くことにしました。

行きの時は気づきませんでしたが、
こちら側にも叶神社がありました。

こちらの西叶神社でお守りの勾玉を受け取り、
渡し船に乗って東叶神社でお守り袋を受け取ると、
縁結びのお守りが完成するそうです。
粋だなあ。
対岸で出会ったあたたかい方々を思いながら、
水辺に沿って歩く。








秋が来るなあ。



浦賀駅のほうまで来てようやく、
ペリー来航の浦賀だと気づく。
あんなに地域の方とおしゃべりしたのに?!
もしかして、当たり前すぎることって
わざわざ教えてもらえない……。


駅まで来ると、
サラリーマンや学生さんも多くいて、
今までいた場所が違う国の話のことだったように
思えました。


遠くはないけれど、近くはない、
都会のマンションでの暮らしとは全然違う、
小さな海の向こうの暮らし。
おばあちゃんたちの声が思い出される。
電車に乗っちゃえば、品川まであっという間よね。
都会の暮らしに疲れてきちゃったら、
いつかまた。
ゆずゆ
使用機材


